小野一之(著)
PHP研究所
本の詳細
実は私は根がせっかちである。だからサラリーマン時代に管理職をしていたときには、部下からの意見や報告に対して、
「要するになんだ?」
と結論をすぐに求める悪い癖があった。
当時私は部長職だったので、”ある程度”自分の意見が通った。私は知らず知らずのうちに傲慢になっていたのかもしれない。しかしこれでは部下も距離を置く。ホンネを話してくれない。必然的に、こちらの説得にも「聞いているふり」はするが本当には納得していない。こういくことでは部下と上司の良好なコミュニケーションは築けない。
その後、私は組織を抜けてフリーの立場になった。こうなると過去の肩書きなどほとんど役に立たない。
組織の中で仕事をしているときは、まだそれでも何とかなった。しかし独立して小さながらも自分で経営し、いろいろな立場の人と付き合っていかなくてはならなくなると、いやでも人の協力を得なければならない。そうでないと仕事が進まないのだ。
「仕事のできる人は、人の力の借り方がうまい」と言った人がいる。まさに至言だと思う。
私はまだそこまで達していないかもしれないが、少なくとも何人かの人が力を貸してくれている。みんな大切な人ばかりだ。
そういう人たちと付き合いのなかで、自分自身の説得力もついてきたのだと思う。
しかしいきなり水をかけるようなことを言って恐縮だが、説得とはそんなに簡単にいくものではないはずである。
テクニックで人を動かせると思っている人ほど、口先ばかりで実際は説得が下手だ。相手はたしかに「YES」と言っているかもしれないが、心の底からは納得していない。だから、いつか心が離れていく。最初は表面的に承諾しても、そのうち次第に離れていくのである。
やや根性論のようだが、あなたが誰かから説明を受けたり説得されるときのことを想像してみればわかると思う。言いたいこともはっきりせず、熱意も感じられない人の説得や説明を聞こうという気になるだろうか。
たとえば二人の営業マンが、同じ値段で同じ商品を売りに来たとしよう。あなたは必ず「熱意と誠意」のあるほうから買うはずだ。
ただしこの「熱意と誠意」は、自然とにじみでるものでなければならない。そうでなければ逆に胡散臭さを感じさせてしまうだけだ。そういう”暑苦しい”人間が、周囲にいないだろうか。
「性格や意見の違いは誰にでもあります。それを少しずつ焦らずに調整していくのがコミュニケーションというものでしょう。」と著者は語ります。
「聞く」ことを重視した、テクニックに頼りすぎない「説明・説得」術。
「あなたの話はわかりづらい」と言われてしまう人や、上司や部下をなかなか説得できない人、などを対象に、すぐに実践できるノウハウをわかりやすく紹介しています。
目次
思い通りに、相手に気持ちを伝えたい! — まえがき
- 「説明と説得」は、少しぐらい口下手でもできる
- とにかく一生懸命に話すことが大切
第1章 そもそも「説得する」とは、どういうことか?
- 相手が納得してくれなければ、本当の理解は得られない。
- 説得とは、”納得”を得ることだということを、まず知っておこう。
[1] 説得とは「説き伏せる」ことではない
- 「わかっているだろう」では説得できない
- 人の話をどこまできちんと聞けるか
- 説得力は、熱意に比例する
[2] 説得の前に、まず「納得」が必要である
- 納得性を高めるにはどうするか?
- 理解してもらうように話す
[3] 相手がわかってくれないとき「説明すること」をおっくうがってはいけない
- 「言わなくてもわかるはず」がいちばん危険
- 相手の立場になって考える
[4] 相手に合わせた話し方をしているか?
- 相手は何を思っているのかを一生懸命理解する姿勢を持つ
- 意見を押しつけても反発するだけである
- 相手はなぜ拒否するのかを、じっくり考える
- 相手の予備知識はどのぐらいかを推し量ろう
[5] そもそも「コミュニケーション」をはどういうことか?
- まず「良好な人間関係」を築くことから始まる
- コミュニケーション能力を高めるには?
[6] 「人に好かれる」ことが第一条件である
- 好感を持たれる人が、人を動かす
- こちらから好きにならなければ、人は寄ってこない
- 説得力は”人間性”に比例する
[7] 熱意、誠意、プライドは説得力の必須条件だ
- 「元気」を相手に与えられるか
- 熱意・誠意とおせっかいは紙一重だが……
- 自分の言うことに誇りが持てているか
[8] 説得上手な人は人間的魅力がある
- 説得名人には、いくつかの特徴がある
- 人間的魅力と説得力の関係は?
第2章 上手な説得のための“心構え”とは?
説得にはまず人間関係が重要だ。良好な人間関係がないところに、「納得のいく説得」もない
[1] 説得する前に押さえておきたい原則とは?
- 「要するに何を説得したいか」を、自分でよくわかっているか
- 相手にとってのメリットを説明し、自尊心をくすぐれるか
- 目と耳と心で話す姿勢を持とう
[2] 聞き上手な人ほど説得力がある
- なぜ聞き上手にならないといけないのか?
- 「聞く」ことには、こんなメリットがある
[3] 聞き上手になるには、どうするか?
- 聞き上手になる五つの法則
- 時には徹底して聞き役に回る
- 相手が話したくなる質問とは?
- 悩みを聞くときは、ここがポイント
[4] ごく自然に納得してもらうポイントとは?
- 「納得」は強要するものではない
- コミュニケーションの原則とは?
[5] 「質問」と「あいづち」を効果的に使う
- 「質問」することで指示命令をやわらげる
- 会議などの場でも「質問」を使って話を進める
- 良いあいづちと「アクティブ・リスニング」
- 「て言うか」「それはそうですよ」などのあいづちは禁物
[6] ハキハキした表情を心がける
- 話の中に”気迫”のようなものがあるか
- 意欲のない話ぶりでは、人の心は動かない
- 「表現は簡潔に」が原則
第3章 「わかりやすい説明」の基本とは?
わかりやすい説明をするための、話の組み立て方、論理的な「話し方」の基本を押さえておこう。
[1] 相手に合わせた話し方をする
- 説明は「相手に合わせる」のが基本である
- 説明の七つのポイント
- 説明から説得へのプロセスとは?
[2] 相手に何を説明したいかを、自らはっきりさせよう
- まずテーマを明確にする
- 会話と説明の違いは?
- 相手にイメージを抱かせる話し方をする
- 説明する内容を書き出してみよう
- 主要なテーマは三つか五つまでに
[3] 相手にとってわかりやすい言葉を使う
- 専門用語や横文字はあまり使わないこと
- 相手が望んでいるものは何かを探ろう
[4] 論理的に説明するには、どこに気をつけるか?
- 話の内容が主題(テーマ)とずれてない
- 時系列など、スムーズな流れで説明する
- 「前置き・本論・結論」がはっきりしている
- 原因と結果がはっきりわかる
[5] 説得には理由や根拠、裏づけが不可欠である
- あいまいな説明は、根拠が不十分
- 根拠や裏づけが「自分のもの」になっているか
- 具体的な方法を示す
[6] まず全体の構造やしくみを理解させる
- 全体の構造を理解させる方法
- 最初に手順を説明する
[7] 順序立てて説明する
- 時間を追って話されるのがいちばんわかりやすい!
- とくに緊急の場合は「重要度」の順番に話す
- 目標と目的の設定は正確に!
第4章 わかりやすい説明・説得の技術 〈応用編〉
説明力・説得力をもっと向上させるには、比喩を使ったり視覚に訴えるなど、さまざまな工夫を凝らそう。
[1] 「要するに何々のようなものである」と、まとめる
- 「そもそも……」「つまり……」と締めくくるとわかりやすい
- 「意味を開く」ということ
[2] リズムと「間」を考えて話す
- いっぺんにたくさんのことを言い過ぎない
- 言葉づかいは平等に。安易に専門用語は使わない
- 「わかりやすい文章の書き方」から学ぶこと
- あまり詳しく説明するとわからない
- ときどき相手の名前を言う(語りかけるように)
[3] 比喩やキーワードを使う
- イメージをふくらませるための”小道具”
- むずかしい話を簡単な話に置き換える
- 比喩を使うときは相手の”興味”レベルに合わせる
- いろいろな比喩のストックを持っておこう
[4] 比較することで、説得する
- 「比べる」ことで特徴を強調する
- 「比較」の仕方を間違うと誤解されたり嫌われる
- 比較のポイントとは?
[5] 数字や資料を効果的に使う
- 数字はたくさん使えばいいというものではない
- プラスの効果を強調するのがポイントだ
- 意見を通すには”根拠”を示す
[6] 視覚(ビジュアル)に訴える
- 資料を効果的に使って説得する
- ビジュアルに訴える効果とは?
- 視覚物を使うときのポイント
[7] 時には話をデフォルメする
- “嘘”にならない程度の誇張は使っていい
- あるパンフレットに見る、デフォルメの例
[8] 大事なことは繰り返す
- 何度も言われると誰でも覚える
- 意味もなく繰り返すだけでは逆効果
[9] 要点を先に言う
- 最初の”つかみ”がポイントだ
- まず結論。それから原因や理由を説明する
[10] 常に「簡潔」と「スピード」を心がける
- 要するに何が言いたいのかを簡潔に
- 説得は出だしのひと言で決まる
第5章 「苦情」や「反論」にどう対応するか?
部下の反論、お客の抵抗や苦情……そうした「NO」を突破するにはどうすればいいのだろう。
[1] 拒否されても相手を認める気持ちを持つ
- 相手の意見をまず受け止めることが大切
- 「できません」は「提案」とセットになっていなければならない
- 否定するときは、やんわりと
[2] 苦情をどう処理するか?
- とにかく信頼回復に努める
- 相手の言うことを最後まで聞く
- 具体的な処理の方法を示す
[3] お客はなぜ抵抗・拒否するかを考える
- まず「反論」か「拒否」かを見極める
- 抵抗の理由を探る
- 相手のホンネをどう探るか
[4] 断り・反論を突破する方法
- 相手の抵抗をどう突破するか
- これだけは知っておきたい七つの応酬話法
[5] 「クロージング」に見る説得の方法
- 説得の最後の詰め「クロージング」
- どちらにしますか、と誘導する「二者択一法」
- 商品のメリットを強調する「優位性認識法」
- 乗り気のお客には、決断を促す「推定承諾法」
- 機が熟してきたら「YES積み重ね法」
- 一種の”脅かし”の手法「ブラフ法」
- こちらが苦手だと思うと相手も逃げていく
いくつかの”失敗”が財産になる — あとがきに代えて
- 最初から「説得の天才」だった人は、いない
- こちらからわかろうとしないと相手は逃げていく
小野一之(著)
PHP研究所