太田肇(著)
日本実業出版社
本の詳細
- 若手がなかなか定着しない
- 最近、昇進したがらない社員が増えた
- 大幅な賃上げができないなかで、どうやって動機づけたらよいのか
- リーダーとしての役割がわからない
- 仕事がマンネリ化しているようだ
- 失敗を恐れすぎる部下がいる
- 「隠れた努力が認められない」という不満がくすぶっている
- 自分自身の意欲に波があるので、それを小さくしたい
- 異動を拒む社員をどうすればよいのか
- 部下の依存心が強く、自立しないので困っている
- 上司と部下、チーム間のコミュニケーションをよくしたい
- 突出した社員をどう扱うべきか悩んでいる
- すぐ、他人のせいにする部下にどう対処すればよいのか
- 「井の中の蛙」状態の社員がいる
- 部下の仕事に対する態度が受け身で、消極的である
- 部下のほめ方、叱り方がわからない
- 部下がなかなか成長しない
これらを見ると、若手経営者たちが直面しているのは、ほとんどがモチベーションの問題だということに気がつく。しかも、それらはたいてい、どこの会社でも抱えている悩みである。
それだけモチベーションは、会社の経営や部下のマネジメントに深くかかわっているわけであり、極論すれば経営やマネジメントの問題は、その大半がモチベーションの問題だと言ってもよいくらいだ。すくなくとも「人」に関する問題は、ほとんどがモチベーションに関係している。したがって、モチベーションの問題さえ解決できれば、人に関する経営上の問題は大半が解消するはずである。
ところが、残念ながら経営者の管理職の多くは、それらがモチベーションの問題だと気づいていない。あるいは気づいていても過小評価しているのだ。そのため、何かあると見栄えのよい制度をつくるだけで満足したり、精神論や「あるべき論」で片づけたりする。
「衣食足りて礼節を知る」と言われるように、生理的欲求や安全・安定の欲求が満たされなければ、仲間がほしいとか尊敬されたいなどと真剣に思わないのである。そして下位の欲求は、ある程度充足されると動気づける力を失う。お腹いっぱい食べた人は食べ物のためにがんばろうとしないし、友達に恵まれている人はそれ以上、仲間づくりのために努力しようとしない。ただし、自己実現欲求だけは例外であり、満たされてもその重要さは低下しないと言われる。
お金があれば食べ物や飲み物が買えるし、安全な家に住んで生理的欲求や安全・安定の欲求を充足できる。また、お金は友達との付き合いにも必要だし、高額の報酬は実力や実績のシンボルとして尊敬される場合もある。したがって、社会的欲求や承認欲求も満たせるからである。
このように、「仲間と楽しく働きたい」とか、「成長したい」というのと、「お金のために働く」、あるいは「出世したい」というのと性質が違うということを理解しておく必要がある。なぜなら、前者は欲求そのものなので、それ自体を尊重しなければならないが、後者はひとつの手段なので、場合によってはほかのものに取り替えられるからである。
たとえば自己実現欲求にしても、達成欲求にしても充足するためには何らかの尺度を必要とする。したがって、はっきり意識しているかどうかは別にして、他人から認められたり評価されたりしてはじめて、「自己実現している」「達成できた」と実感できるわけである。ハーバード大学の心理学者であるホワイトの言う「有能性」や、カナダ人の心理学者であるバンデューラの唱えた「自己効力感」はひと言で言うなら自分の能力に対する自信であり欲求に近い性質のものだが、それらも他人からの承認というフィードバックがあって、はじめて実感できることが多い。
とくにわが国では、傑出した実力や多大な業績を賞賛するより、和を乱さず、分に甘んじることをよしとする風土になりやすい。そのため、会社員や公務員のなかには、特別に出世して認められなくても人並みの地位に就ければよいという人が少なくない。日常の仕事でも、がんばって上司に認められるより周囲と歩調を合わせて仲間に認められるほうがよいという人がいる。
つまり、求める承認のレベルは人によって差があり、また承認が社会的欲求とも結びついているわけである。それだけに承認によって動機づけるためには、その人のバックグラウンドや本人の夢・志、職場の風土や周囲との人間関係などを考慮して手を打たなければならない。
読んでおきたいコールセンター参考書|モチベーションに関する参考書
目次
まえがき
第1章 モチベーションの真実
「やる気」は何から生まれるのか?
- 人それぞれ、しかし共通項はある/「成長したい」と「出世したい」は次元が違う/承認はなぜ自己実現より重要か?/努力を陰で支える自己実現欲求/報酬がモチベーションにつながる条件/サラリーマンはなぜ出世にこだわる(こだわった)のか?
「やる気」はどうして生まれるのか?
- 基本はイルカやアシカと同じ/だが、人間は「計算」する動物である/セールスマンのモチベーション/応用範囲の広い期待理論/「無意識」の背後で働く計算/先に「エサ」を食べても、がんばるのが人間/逆に損をしたときは・・・/褒美がモチベーションの質を低下させるとき/楽しさ、おもしろさだけでは続かない/やる気が先か、行動が先か?/満足とモチベーションはどこが違うのか?/満足したらモチベーションが上がる場合、下がる場合
隠れたホンネを察知する
- ドタキャン常習犯、その理由は・・・/無能を装う人/「手当が付かないから残業する」という心理/別の目的や感情が隠れていることも/ホワイトカラーの生産性が上がらない理由
第2章 モチベーションをアップさせる鉄則
まず「やる気の足かせ」と取り除く
- 日本人のモチベーションの特徴/これまでのモチベーションがもう通用しない/モチベーションの「量」と「質」は反比例する/モチベーションは枯渇する?/モチベーションには最適値がある?/モチベーション・アップは2段階で
「長時間労働」という足かせ、それを外す方法
- ゴールの見えないマラソン?/「川上」は任せ、「川下」を管理する/せめて残業のタイムリミットは明示しよう
「人間関係」という足かせ、それを外す方法
- 原因には3つのタイプがある/人間関係の偏りをなくす方法/意識を外に向けさせる
「過剰な管理」という足かせ、それを外す方法
- 危険な「質」の手抜き/日本の職場は過剰管理になりやすい/仕事の「線引き」を明確にする/異質な人材が過剰管理を防ぐ
「不公平な人事評価」という足かせ、それを外す方法
- 細かすぎる評価は部下を萎縮させる/意欲の評価が意欲を奪う/「評価を文章化」する意味
「理不尽な待遇の引き下げ」という足かせ、それを外す方法
- 給与カットのツケ/損は必ず埋め合わせる
やる気倍増のツボ
- 「超やる気人間」に共通する特徴
自律性を高める
- 自律は「やる気の母」/分担をはっきりと決めるメリット/プロジェクト方式を多用する/労働時間をどれだけコントロールできるか?/何年先まで見通せるかがポイント/社員が辞めても互いにWinWinになる仕組みに
認められる機会を増やす
- 「承認」による動機づけの基本/「ハレの舞台」を用意する/上手なほめ方、認め方/ほめにくいときの工夫/「承認のシンボル」としての表彰/上手な叱り方とは/「叱る」という言葉を封印しよう
意識を外に向けさせる
- ライバルとの競争にエネルギーを浪費させるな/社員と顧客との接点を増やし、名前と顔を出して仕事をさせよう/裁量権を与えることも忘れずに/社外プロジェクト参加の後押しを
チーム力を高めるには
- 2種類のチームワーク/同質なチームでは「手抜き」が起きやすい/異質なチームなら個の総和を超えられる/「プロジェクトX」はなぜ成功したのか?/よい競争、悪い競争
自分のモチベーションを高めるには
- 「志」か「野心」か?/ナルシシズムは大切/日々の単調さから抜け出すには?/「パラレル・キャリア」という選択肢も
第3章 タイプに応じた「やる気」の高め方
タイプによって効果が真逆にも
- まず1人ひとりのホンネを探ろう/上昇志向と安定志向/外向的人間と内向的人間/ほめたら伸びる社員、慢心する社員/「ほめたら図に乗る」若手の扱い方/すぐ凹む若手の「やる気」を引き出すには?/プレッシャーに弱い社員には?
女性、中高年、派遣・・・属性に応じた動機づけのコツ
- 男女で違う「やる気の源泉」/若者は「上司より仲間に」認められたい/異性といっしょなら残業も苦にならない/ミドルになると、仕事と生活の比重が逆転する/保守的なミドルを活性化するには?/マンネリ中高年の意欲を復活させるには?/「役立っている」と実感させる/派遣や契約社員には将来ビジョンに応じた動機づけを
第4章 こんなとき、どうするか? 〜ケースに応じた処方箋
[ケース 1] 職場のコミュニケーションが不足している
- まず「場」をつくる/意思疎通ができているはずが・・・/先輩が後輩を指導しないとき/「斜めの関係」を取り入れる
[ケース 2] 若手が消極的だ
- 素直だが自分からやろうとしない/「管理職に就きたくない」症候群/現実的な対策は何か?/「管理→依存→管理の悪循環」から抜け出すには?/社員が成長しない/「成長の先に何があるか」がポイント
[ケース 3] 職場の風土に変えたい
- ミスや不祥事が減らない/仕事に取りかかるのが遅い/社員がダラダラと残業する/よどんだ空気を変えるには?
[ケース 4] 1人ひとりの成果に報いたい
- 成果をあげる条件を公平に/デジタル化して「あいまいさ」を排除する/「名誉の成果主義」という考え方
[ケース 5] チームワークがよくない
- 社員同士が助け合おうとしない/チームから取り残される社員がいる
あとがき