酒井光雄(編著)武田雅之(著)
かんき出版
本の詳細
ちなみにピーター・ドラッカー(*)は、著書『マネジメントI』(日経BP社)の中で、マーケティングの元祖は三越の前身である越後屋だと述べている。
当時、日本の小売業の商い方法は、見世物商い(得意先を訪問して注文を取り、後から品物を持参する)か、屋敷売り(直接商品を得意先に持って行き販売する)だった。大名、武家、大きな商家といった顧客の支払いは、6月、12月の節季払いか、年1回払いが普通だった。そのため、商いをするには運転資金が必要で、支払の延長や回収不能などのリスクもともなうことから、売価が高くなる弊害があった。
そこで、越後屋は現金販売、正札(値札づけ)販売、コンサルティング・セールス、カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM = Customer Relationship Management)、大福帳による顧客データベースづくりとその活用など、世界でも画期的なマーケティング活動を行った
米国の小売業、シアーズ・ローバックが19世紀末に最初に始めたと思われていた取り組みが、実は250年も前に日本で実践されていたわけだ。
残念ながら、こうした越後屋の取り組みは、体系化されたり書籍や文献として残されたりすることなく、また情報としても発信されなかったため、世界から評価を受けずにきてしまった。
ビジネスという現実世界で生じていることは、教室や研究室で議論されている内容よりも、絶えず先行する。それゆえ、知識として取得したマーケティングの理論が当てはまらず、場合によっては、使えないと感じる読者もいるだろう。
間違ってはいけないのは、先人が研究し、体系化したマーケティングのサイエンスは、すべてのビジネスシーンにおいて、「解答」を導き出すためのマニュアルではないということだ。「書籍に記載してあることを実践すれば成功する」「理論通りにプロセスを踏めば、ブランドが創造できる」などと考えてはいけない。
業界や業種、製品やサービス、企業規模などが異なれば、ビジネスパーソンが取り組むマーケティングも異なり、どの企業にもそのまま生かせる理論など存在しない。読者がその違いを踏まえ、自社に最適なマーケティングを考え出すためのナビゲーションの役目を担うのが、先人の考えた理論や概念だ。
そこで本書では、先人が考えて体系化したマーケティングのサイエンスを活用し、読者が最適なマーケティングを考え出す一助にしてもらうために、「第2部マーケティング実務編」を用意した。ここに登場する企業事例に触れれば、携わった企業担当者が知識ではなく知恵を生かし、「最善の解」を導き出していった経緯がわかるはずだ。本書を通して、マーケティングの「知識」ではなく「知性」を磨き、最善の解を自らの力で導き出してもらいたい。
目次
INTRODUCTION 本書の役割と読み方
1 マーケティング全史を時系列に俯瞰し、その変遷を理解する
(「第1部 マーケティング発展史」の読み方)
- マーケティングは「時代を映す鏡」
2 今のビジネスシーンで、どんなマーケティングが実践されているかを理解する
(「第2部 マーケティング実務編」の読み方)
- 自社に最適なマーケティングを考え出すためのナビゲーション
- 8つの視点を基に、「歴史的レビュー」と「最新の取り組み」の両輪で構成
PART1 マーケティング発展史
CHAPTER1 FRAMEWORK
マーケティング・フレームワークの進化
- 鉄道・電信、そして自動車の登場でマーケティングの概念が誕生
- マーケティング論文の登場、米国の大学で講座がスタート
- 製品ライフサイクル概念の登場
- 市場成長率だけではなく、市場シェアという視点が登場
- 製品差別化と市場の細分化、そしてSTP概念の登場
- マーケティング・ミックスと4P概念の登場
- 製品至上主義から、顧客満足と顧客創造へ
- イノベーションの普及プロセスを解明する普及理論の登場
- プロダクト・ポートフォリオ
- 顧客視点から市場を細分化するライフスタイル・マーケティング
- 企業視点の4Pに対して、顧客視点から登場した4C
- アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間にある「深くて大きな溝」
- 顧客の心の中に企業の居場所を明確にするポジショニング戦略
- 顧客志向に論争を挑んだポストモダン・マーケティング
- アンチテーゼとして登場したラテラル・マーケティング
CHAPTER2 EXTENSION
マーケティングの適用範囲の拡大
- モノを売るためから、顧客視点や社会性・公共性までが視野に入る
- 企業の海外展開に呼応して登場したグローバル・マーケティング
- 生産材のマーケティングと生産材市場における市場の細分化
- 人類の80%を占める貧困層向けのマーケティング概念、BOP
- 個別のマーケティング理論を統合化するホリスティック・マーケティング
- ソーシャル・マーケティングと社会的責任マーケティング
- 具体的な戦術のコーズ・リレーテッド・マーケティング
CHAPTER3 INNOVATION
マーケティングのイノベーション
- ヒット商品を生み出す存在となるリード・ユーザー
- イノベーション研究の過程で登場した「イノベーションのジレンマ」
- デザイン概念によるデザイン・ドリブン・イノベーション
- BOPマーケティングとも関連するリバース・イノベーション概念
CHAPTER4 BRAND
コーポレート・アイデンティティとブランド研究
- コーポレート・アイデンティティ概念の登場
- CIからブランド概念へと進化
- M&Aの登場で、企業会計上の無形資産となるブランドの価値
- ブランドの根幹を担う社員に向けたエンプロイヤー・ブランド
- 強固なブランドを構築するブランド・レゾナンス・ピラミッド
- 複数のブランドで全体最適を実現するブランド・ポートフォリオ
CHAPTER5 SERVICE
モノとは異なるサービスのマーケティング
- サービスにはモノとは異なるマーケティングが必要だ
- サービスの定義づけから始まったサービス・マーケティング
- 従来の4Pではなく、サービス・マーケティングの7Pが登場
- サービスを細分化する
- 顧客とサービス・スタッフの相互作用に注目したサービス・エンカウンター
- 顧客の視点からサービス品質を評価するSERVQUALモデル
- インターナル・マーケティングという社内向けマーケティングの視点
- ESとCSの好循環に着目したサービス・プロフィット・チェーン
- サービスを顧客の経験という視点から見た経験価値マーケティング
- 世の中のものすべてをサービスと捉えるサービス・ドミナント・ロジック
CHAPTER6 RELATIONSHIP
顧客との強固な関係づくり
- ダイレクト・マーケティングという新しい概念の登場
- 生活者の包括的な購買意思決定モデル、ハワード・シェス・モデル
- 「顧客満足」を定義する
- 顧客満足を形成するメカニズム、期待不確認モデル
- サービス業調査で浮かび上がった従業員満足と顧客満足の因果関係
- 顧客満足によるリピーター顧客の育成と顧客生涯価値の向上
- データベース・マーケティングに欠かせないRFM分析
- データベース・マーケティングの究極の姿、ワン・トゥ・ワン・マーケティング
- 顧客との関係性を経営の中核に据えるCRM
- リピーターづくりと顧客生涯価値向上に欠かせない、顧客ロイヤリティの形成
- 顧客ロイヤリティの概念と定義
- 顧客に許諾を得るパーミッション・マーケティング
- 顧客を資産と位置づけた顧客資産価値とその定義
- 顧客が自然にやって来ることを目指すインバウンド・マーケティング
- 企業の応援者の力を借りるアンバサダー・マーケティング
CHAPTER7 COMMUNICATION
マーケティング・コミュニケーション
- 米国ではAIDMAよりも評価されているAIDAの概念
- 日本ではよく引用されるAIDMA理論
- 映画やテレビの中に商品を登場させるプロダクト・プレイスメント
- 広告の目標達成度合を数値で評価するDAGMAR理論
- 広告の大原則、ユニーク・セリング・プロポジション
- 競合商品との露出度比較ができるシェア・オブ・ボイス
- オリンピックで開花したスポンサーシップ・マーケティング
- 生活者との全接点を重視する統合型マーケティング・コミュニケーション
- アマゾンが開花させたアフィリエイト・プログラム
- 提案やクチコミで顧客を増やしていくバイラル・マーケティング
- マーケティングはネット検索時代に対応する
- SEO — 検索エンジン最適化
- サーチエンジン・マーケティング
- クチコミを生み出すバズ・マーケティング
- ネット時代に必須となった「検索」と「共有」を盛り込んだAISAS
- 短時間限定を売り物にしたフラッシュ・マーケティング
- 海外では違法とされるステルス・マーケティング
- 「Nike+」で具現化されたゲーミフィケーションの概念
- アンバサダー・マーケティング
CHAPTER8 DISTRIBUTION
流通の新たな取り組みと新業態
- 100円ショップの前身、1ペニー・ショップ
- M&Sが価格決定権を握るために考え出したプライベート・ブランド
- プライベート・ブランドから誕生したSPA
- アウトレット・ストアとアウトレット・モール
- チェーンストア理論
- ウォルマートのエブリデー・ロー・プライス
- サプライチェーン・マネジメントの目的
- GAPの登場とSPAの登場
- 小売業とメーカーの思惑が合致したカテゴリー・マネジメント
- 既存のデパートや量販店に脅威を与える存在、カテゴリーキラー
- フリークエント・フライヤー・プログラムとフリークエント・ショッパーズ・プログラム
- 売れ残りをなくし収益を最大化させるイールド・マネジメント
- メーカーと小売が共同で行うチーム・マーチャンダイジング
- SCMとディマンド・マネジメントを融合したECR
- イーベイが市場を開拓したオンライン・オークション
- 実店舗とネット店舗を同時に運営するクリック・アンド・モルタル
- 無料を切り札に顧客を集めるビジネスモデル、フリーミアム
- ネットと情報機器の進化でオンライン・ツー・オフラインが注目
- O2O概念を拡張させ、ショールーミング化を防止するオムニチャネル
PART2 マーケティング実務編
- 実務編を読み始める前に
- マーケティングの理論やセオリーはマニュアルではない
- マーケティングの答えは1つではない
CHAPTER1 FRAMEWORK
バーティカル・マーケティング VS.ラテラル・マーケティング
(マーケティング・フレームワークの進化)
- なぜ理論や手法を使いこなせないのか
- 既存市場のマーケティングでは、マーケターは従来の方法論を踏襲する
- 斬新なマーケティングを実現する際、社内の障害が立ちはだかる
- 「競合企業が模倣して参入してくる」ことを前提に、プランを策定する
- 競合他社と同じ発想起点に立たないこと
- 既存の仕組みが直面する閉塞感を打ち破り、新たな道を探す
- 従来の方法に限界を感じたら、ラテラル・マーケティングを実践する
- ラテラル・マーケティング実践例、江崎グリコの「オフィスグリコ」
- オフィスグリコに学ぶ、水平移動を用いた水平発想
CHAPTER2 HOLIC MARKETING
徹底したSTPの実践と、ホリスティック・マーケティングを加味したSTP
(マーケティングの適用範囲の拡大)
- 普遍的な考え方を高度化させて、自社のマーケティング力を強化
- B2B市場とB2C市場それぞれの特徴
- B2B市場には、大企業が参入してこない独自の市場が存在する
- 日本のモノづくりは近年、B2Bで本領を発揮している
- B2CからB2Bにシフトする企業もある
- 日本のB2B企業が、さらに強みを発揮するためのマーケティング視点
- 日本のモノづくりはどこでつまずいたか
- マーケティングのSTPを徹底する「村田製作所」
- 村田製作所に学ぶマーケティングの5ポイント
- B2B市場も、どの市場を狙うかでマーケティングの中身が変わる
- 日本人の財布からマーケットボリュームを知る
- 市場を絞り込んだB2C市場の例
- ビジネスパートナーと顧客、そして自社に喜びがもたらされること
- STPを加味したホリスティック・マーケティングをネットで展開する「一休.com」
- 「一休.com」に学ぶマーケティングの5ポイント
CHAPTER3 INNOVATION
過去の方法論に固執しないイノベーションの発想フレームを使う
(マーケティングのイノベーション)
- 成熟期にある製品やサービスのマーケティングに取り組む
- 市場を活性化させる意外な存在
- 自社と自社商品は将来どうなるかを見極める
- クリステンセンが指摘するイノベーションを踏まえる
- 成熟期の市場の現象を踏まえ、とるべきマーケティングを検討する
- 成熟期の停滞感を打ち破った「マルちゃん正麺」
- マルちゃん正麺に学ぶマーケティングの5ポイント
- 既存市場の衰退が明らかで、早急にイノベーションが必要な場合
- イノベーションの新発想I
- イノベーションの新発想II
- 「このままではアップルもソニーの轍を踏む」
- イノベーションの新発想III
- 既存製品の「意味」を変えて新市場の創造に成功した「ルンバ」
- ルンバに学ぶマーケティングの5ポイント
- 市場が構造的な変質に直面し、力を失っていくときの状況を知る
- 自社の事業を見直して苦境を乗り越えた「富士フィルム」
- 富士フィルムに学ぶマーケティングの6ポイント
CHAPTER4 BRAND
値下げ圧力に屈せず、価値で勝負できるブランドづくり
(コーポレート・アイデンティティとブランド研究)
- ブランドがわかる人とわからない人
- ブランドは「高級」「ファッション」「高額品」とは限らない
- 和歌山電鐵貴志川線貴志駅の駅長を務める雌の三毛猫「たま」
- ニューヨークの老舗ホテルに暮らす常連顧客の猫「マチルダ」
- 米国の高級ホテル、フェアモント、コプリー・プラザ・ホテルの「接客犬」
- ブランドは実務を通じて誕生し、理論は後から登場してくる
- ブランドワークショップ — 自分でブランドをつくってみる
- STEP(1)既存のお菓子とスイーツ市場を俯瞰し現状を把握する
- STEP(2)自社製品が参入する市場を検討して決定する
- STEP(3)想定顧客を設定し、製品をデザインする
- STEP(4)ブランディングを検討する
- ストアブランドやサービス業でブランド価値を向上させたい場合
- 日本の独自性が光るブランディング「ソメスサドル」
- ソメスサドルに学ぶマーケティングの5ポイント
- 人工皮革ブランドの価値を高めた東レの「アルカンターラ」
- アルカンターラに学ぶマーケティングの5ポイント
CHAPTER5 SERVICE
新たなビジネスモデルとは、「製造業のサービス業化」と「サービス業の製造業化」だ
(モノとは異なるサービスのマーケティング)
- 日本のサービス産業のレベルの高さ
- いつからか、サービスは「無料」だという概念に変換された
- 世界に誇れる日本のサービスは、システム化が遅れた
- ビジネスのサービス需要は、企業がコントロールできない
- 製造業から見たサービスへの取り組み
- サービス業から見たモノづくりへの取り組み
- 東京ディズニーリゾートの売上げ構成比に学ぶ収益モデル
- 「製造業のサービス業化」と「サービス業の製造業化」という発想起点
- サービス業化に取り組み、成果を上げている製造業「ロバート・ボッシュ」
- ボッシュに学ぶマーケティングの5ポイント
- 製造業の発想でハコモノ行政を改革、税収を増やした「佐賀県武雄市」
- 武雄市に学ぶマーケティングの5ポイント
CHAPTER6 RELATIONSHIP
顧客の側から近寄り、長く継続利用し、他者に推奨してもらう
(顧客とのリレーションと顧客心理の理解)
- 「文句が出ないようにする」ではなく、「期待を超える」視点で取り組む
- 顧客満足の向上を売上げと利益に結び付けるNPS
- 情報検索社会ではインバウンドのマーケティングが必然化した
- インバウンド・マーケティングに取り組む手順
- 生活者から見て信頼が置ける第三者による評価と、そのコメント内容
- 一般ユーザーに協力なアンバサダーになってもらう視点
- オンライン・コミュニティをつくって業績を回復させた「スターバックス」
- スターバックスに学ぶマーケティングの5ポイント
- アンバサダーになったユーザーに商品を推奨してもらう「無印良品」
- 無印良品に学ぶマーケティングの5ポイント
CHAPTER7 COMMUNICATION
インターネットを活用した生活者とのコミュニケーションとリスクマネジメント
(高度化する社会に対応したマーケティング・コミュニケーション)
- マスメディア時代は企業から一方的にメッセージを発信できた
- 日本企業にマーケティングを紹介し、その概念を広めた大手広告代理店
- 広告代理店の功罪
- ネットの出現で、コミュニケーションと販売方法が激変
- ネットを使ったビジネスとコミュニケーションにおける「禁じ手」
- 生活者が発信する情報はまたたく間に拡散し、共有化される
- これまで存在しなかったネット社会特有の企業リスク
- 炎上事件(1)ユナイテッド航空の「ギター破損」
- 炎上事件(2)グルーポン経由で販売された「バードカフェのおせち問題」
- 迅速な判断と情報収集、対応で炎上を回避した「チロルチョコレート」
- チロルチョコレートに学ぶマーケティングの5ポイント
- ソーシャルメディアを活用して、不祥事を挽回した「ドミノ・ピザ」
- ドミノ・ピザに学ぶマーケティングの5ポイント
CHAPTER8 DISTRIBUTION
小売業の生き残りは安売りからの脱却。バーチャルとリアルの攻防とその先
(流通の新たな取り組みと新業態)
- 日本の小売業の変遷とその取り組み
- 米国の小売業の動向
- リアル店舗に加えてeコマースの拡大に対応できる独自の決済方法への取り組み
- 目的購入の際に圧倒的な強みを発揮するバーチャル店舗
- 衝動買いを誘発する仕組みづくり
- 新規需要を創造するコンテンツ企業と、彼らとの提携や買収に動く小売業
- ハードのソフト化とソフトのハード化が加速
- 生活者は情報の取捨選択を強め、企業は情報をマネジメントすることが不可欠になる
- ネット通販に「最適な商品群」が存在し、メジャーなネット通販サイトの登場により市場が顕在化
- リアルの店舗のショールーミング化
- 今後小売業は安売りだけを売り物にしていては存続できなくなる
- 生活者にとって最も使い勝手がよい買物をする場所として、リアルもバーチャルも共存する
- オムニチャンネル対応を加速させる「セブン&アイ・ホールディングス」
- セブン&アイ・ホールディングスに学ぶマーケティングの5ポイント
- おわりに
- 用語索引
- 人名索引
- 書名索引
酒井光雄(編著)武田雅之(著)
かんき出版