迫俊亮 (著)
ディスカヴァー・トゥエンティワン
本の詳細
放っておけば10年以内に倒産する可能性すらあった。朽ち果てる寸前の、老木のようだった。
僕たちは「業績は下がり続け、上向く気配すらない」「何が問題かは明らかなのに長年手つかず」「会社のために意見を出せば『上司に逆らうのか』と言いがかりをつけられる」という典型的なダメ会社だった。
やる気を引き出し、人を動かす リーダーの現場力/迫俊亮(著) ディスカヴァー・トゥエンティワンより
この会社で、僕は社長として何をしたのか?
革新的な戦略を打ち出した? カリスマ的なリーダーシップで会社を引っ張った? 外資系からエリートを大量に採用した? いや、どれも違う。
僕はひたすら、会社のすべてを現場中心につくりなおしてきた。現場を徹底的に尊重し、「現場軽視」につながる施策はすべて廃止した。
経営と現場の間にあった深い溝は、コミュニケーションによって地道に埋めていった。現場が持つ可能性を最大限に発揮できるための「仕組みづくり」もどんどん進めた。
僕がもし他のリーダーと異なる点があるとすれば、現場を動かす力、つまりリーダーとしての「現場力」を人一倍重視したという一点に尽きるだろう。
この会社が変われたのは、現場のおかげだ。
職人は、ただいらっしゃったお客様にメニューどおりの対応をするわけではない。靴は一足ずつ違うものだし、イレギュラーなケースも多い。ときには愛する人の形見を持ってくるお客様もいらっしゃる。メニューどおりでは対応できないモノもある。
そんなときにどんな提案をするか、どれだけお客様のことを思えるか、一人ひとりの職人に委ねられている。ミスターミニットの現場は、会社のすべてなのだ。
とはいえ、現場を知らない僕は、誰を部長にすべきなのかもわからない。「結局現場のことをいちばん知っているのは現場の人間だろう」と考え、どのエリアマネジャーを運営部長にしたいか、誰だったらついていきたいか、当のエリアマネジャー8人全員にヒアリングした。
すると、おもしろいことにほぼ満場一致で帰ってきたのは「渋谷エリアの清水さん」。
彼らが言うには、清水は現場を守る意見を愚直に経営サイドにぶつけ続ける、いわば「防波堤」のような存在らしい。しかし、現場から慕われる一方、経営サイドからは「都合の悪いことを言ってくる現場社員」として疎んじられ、低い評価に甘んじていた。
経営サイドはおもしろくない。反対の声もあった。それでも僕は、現場の声を信じなんとか押し切った。ミスターミニットで過去ほとんど例のなかった、「現場出身の部長」として清水健太郎を任命することにしたのである。
この会社の現場からやる気を奪ってきた、「出世の天井」が打ち破られた瞬間だった。
目次
はじめに
- どんな会社も、現場次第で必ず変われる
- ミスターミニットという会社
- なぜ、29歳の僕が社長になったのか
- 「つくる」リーダーシップより「つくり直す」リーダーシップを
CHAPTER 1 「10年連続右肩下がり」の会社では何が起こっていたのか?
腐っていた経営と現場の「配管」
- 本社から次々に飛ぶ「現場感ゼロ」の指示
- 「上に何を言っても無駄」というあきらめと無力感
- 新サービスは40年間成功ゼロ
- 経営サイドの無自覚な「現場軽視」がもたらしたもの
- 押さえつけられていた現場の可能性
- うまく機能しない組織がハマる3つの罠(わな)
- 「現場と経営の三角形」をひっくり返す
CHAPTER 2 信頼度ゼロからでもリーダーシップを築く方法
リーダーとは、フォロワーがいる存在である
- 戦略より仕組みより大切なもの
- リーダーが「正論」を封印すべき理由
- なぜ、会社を去った職人が50人以上戻ってきたのか?
- 「100%の敬意」を言動に宿らせる
- 部下の短所は、直さず「補う」
- リーダーから先に部下のリクエストを聞く
距離を縮め、心をつかむ「伝え方」
- ささやかなコミュニケーションのチャンスを見逃さない
- 「タブーの壁」はリーダーから壊す
- いいコミュニケーションは会議室の「外」で生まれる
- 部下と「駆け引き」してはいけない
- コミュニケーションのPDCAを回す
- 「好き」は社員との共通言語になる
「リーダー性」は、育てることができる
- 誰にも頼らず頑張った」は最悪のリーダーシップ
- 仕事を手放すことがリーダーの仕事
- 「コミットメント」が人を動かす
- リーダーに「自意識」はいらない
CHAPTER 3 やる気と向上心を引き出す「人事」をつくる
問題は「人」ではなく「仕組み」にある
- 感情的にならないリーダーと社会学の意外な関係
- 「マイナス要素の修正」と「プラス要素の追加」を両輪で回す
まずは「大きな石」を取り除く
- 仕組みのつくり直しは、土壌づくりから
- 一見合理的なKPIに要注意
- お客様と同じように社員をフォローできているか?
- 採用と抜擢は現場への「ラブレター」
人事にこそ「選択と集中」を
- 人事は会社のガソリンである
- あえて評価に「ざっくり感」を持たせる
本当に大切なのは、人事の「後」何をするか
- 意識的に「スター社員」を生み出す
- 抜擢後の活躍を支える「CARE」とは?
- 「聞く面接」より「語る面接」
CHAPTER 4 社員の能力を100%引き出す「組織・インセンティブ・会議」をつくる
リーダーが次々に生まれる組織をつくる
- 権限委譲でつまずくふたつのパターン
- 「小さな三角形」を無数につくる
- 「リーダーとの二人三脚」でこそ、人は育つ
- 「うまく失敗させる」のもリーダーの役割
- まず最小単位で理想のチームをつくる
- 賃金総額は本社部門が半分に、現場のリーダーは3倍に
現場が盛り上がるインセンティブを設定する
- 「自分が決めた」という実感がモチベーションを高める
- 現場が決め、現場が配るふたつのインセンティブ
「いい会議」が「いい組織」をつくる
- その会議は「誰」に最適化されているのか?
- いい会議に資料はいらない
- 会議を活用して社員の「目線」を上げる
- 議事録は現場とのコミュニケーションツール
- 組織の「病気」を防ぐための健康診断とは?
- 組織のキャパシティを超えた「根性論」は排除する
- だから、「Google本」は役に立たない
CHAPTER 5 人を動かし、未来を紡ぐ「ビジョン」をつくる
ビジョンなくして戦略なし
- 課題解決ではなく「課題変革」がリーダーの仕事
ビジョン=「らしさ」X「時代」X「経済性」
- ビジョンとは「どの山を登るか」を決めること
- 「ふつうの会社」は一点突破で圧倒する
- 「らしさ」を無視したビジョンは機能しない
- 新サービスを成功に導く4つのポイント
- 大きな挑戦は成功体験を積み重ねてから
- 「これからどんな時代になるか?」の答えが仮説をつくる
ビジョンを活かすために、リーダーが心がけるべきこと
- 現場と共に見つけたビジョン、「世界ナンバーワンの『サービスのコンビニ』」
- 戦略に必要な「大股(おお また)の一歩」
- ときには目先のメリットをあえて見送る
ビジョンを単なる「お題目」にしない方法
- ビジョンを浸透させる3つのステップ
- ビジョンとはリーダーが掲げる「団旗」である
おわりに
- すべての人と会社の可能性が100%発揮される日を目指して