クレイトン・M・クリステンセン(他著)依田光江(訳)
ハーパーコリンズ・ ジャパン
本の詳細
たとえば、喫煙者が一服しようと休憩をとるとき、ある面では身体が欲するニコチンを摂取したいだけといえる。これが機能面である。だが、このとき起こっているのはそれだけではない。彼らは気を落ち着かせ、リラックスするという、感情面のメリットを享受するためにタバコを雇用している。さらに、ごく一般的なオフィスビルで働いているなら、タバコを喫うには外へ出て所定の喫煙所へ行かなければならない。その選択には感情面だけでなく社会面でのメリットもある。仕事に区切りを入れて、仲間とくつろぐことができるのだ。
このような観点から見ると、人がフェイスブックを雇用する理由も多くが喫煙と共通している。仕事の合間に休憩しようとフェイスブックにログインし、仕事とは別のことを考えながら数分ほどリラックスして、遠く離れた友人たちと仮想井戸端会議を開く。ある意味フェイスブックは、じつはタバコと同じジョブをめぐって競い合っているといえる。喫煙者がどちらかを選択するかは、その特定の時点でその人が置かれている状況によって異なる。
マネジャーや業界アナリストは競争の枠組みをシンプルに考えたがる癖がある。似たような企業や業界やプロダクトを同じバケツに入れるのだ。コカコーラ対ペプシ。プレイステーション対XBox。バター対マーガリン。
従来のレンズで見た場合、多くの企業がゼロサムゲームに追われている現状では、市場シェアの獲得には限界があるように思える。
だがジョブ理論のレンズを通すと、市場で同じカテゴリにくくられているプロダクトだけに競争相手が限定されることはほとんどない。これを明確に打ち出しているのは、ネットフリックスCEOのリード・ヘイスティングスだ。彼は、著名なベンチャー・キャピタリストのジョン・ドーアにネットフリックスはアマゾンと競っているのかと問われ、こう答えた。「リラックスのためにすることなら、なんでも競争相手だ。ビデオゲームと戦い、ワインを飲むこととも戦う。じつに手ごわいライバルだね。もちろん、ほかの動画配信サービスとも競う。ボードゲームで遊ぶことも」
競争の勢力地図は新しいものへと移り変わる。ときには、不安を覚えるほど様変わりするかもしれないが、ジョブ理論のレンズを通して見れば、そこに新しい可能性のあることがわかる。
目次
序章 この本を「雇用」する理由
イノベーションを運任せにする必要はない。一か八かの賭けは他社に任せ、正しいプロセスを手に競争を勝ち抜こう。
- まちがったことに上達する
- どんなジョブのためにそのプロダクトを「雇用」したのか
第1部 ジョブ理論の概要
第1章 ミルクシェイクのジレンマ
イノベーションはなぜこれほど予測と持続がむずかしいのか。それは、正しい質問をしてこなかったからかもしれない。
- 朝のミルクシェイク
- マーガリンのレジュメ
- ジョブ理論とイノベーション
- 章のまとめ
第2章 プロダクトではなく、プログレス
ジョブ理論は、イノベーションを予測可能なものにしてくれる。まずは、顧客が特定の状況で成し遂げようとしている進歩を理解しよう。
- 「何を」ではなく、「どう」考えるか
- ジョブの定義
- 進歩
- 状況
- 機能面、社会面、感情面の複雑さ
- ジョブとは何か
- ジョブでないもの
- ジョブを見きわめるには
- この動画に記録されるべき要素
- 競争の勢力図の変化
- ジョブ理論の限界
- コペルニクス的転回
- 章のまとめ
- リーダーへの質問
第3章 埋もれているジョブ
ジョブ理論は、市場の規模と全体像、競争相手の定義に変革をもたらす。サザンニューハンプシャー大学をはじめとする豊富な事例をもとに、イノベーションを強力にガイドするジョブ理論の力を探ろう。
- 無と競争する
- ジョブの適用範囲は深くて広い
- B2Bにおけるジョブ
- 価格2倍で機能半分
- 顧客の人生に寄り添う
- 章のまとめ
- リーダーへの質問
第2部 ジョブ理論の奥行きと可能性
第4章 ジョブ・ハンティング
ジョブは発見されるのをどこで待っているのか?どう見つければいいのか?その答えは、従来のツールではなく、何を探し、観察した結果をどうつなぎ合わせるかにかかっている。
- ジョブはどこにある?
- 1 生活に身近なジョブを探す
- 2 無消費と競争する
- 3 間に合わせの対処策
- 4 できれば避けたいこと
- 5 意外な使われ方
- 感情面の配慮
- 魔法は必要ない
- 章のまとめ
- リーダーへの質問
第5章 顧客が言わないことを聞き取る
顧客がみずからの要求を正確に表明できるとは限らない。購入動機やそこに至る道筋は、口に出されるよりずっと複雑だ。だが、顧客が何を「解雇」するのかを見れば、隠れたストーリーが浮かび上がってくる。
- 顧客のストーリーをつくる
- マットレス購入までの道程
- 衝動買いの裏に
- アドビルかレッドブルか、新しいマットレスか
- ジョブとインサイト
- 章のまとめ
- リーダーへの質問
第6章 レジュメを書く
自社製品を確実に「雇用」してもらうにはどうすればいいだろう?顧客の「片づけるべきジョブ」に真に応えるには、正しい体験を提供する必要がある。それにより、顧客はプレミアム価格をいとわなくなる。
- ジョブを解読する
- 体験とプレミアム価格
- 障害物を取り除く
- ウーバーの体験
- ジョブに適していることをどう伝えるか
- パーパスブランド
- 章のまとめ
- リーダーへの質問
第3部「片づけるべきジョブ」の組織
第7章 ジョブ中心の統合
成長を遂げる企業はジョブを中心に組織を最適化する。顧客のジョブの遂行には社内プロセスを統合させることは、自社製品を強力に差別化するためのメカニズムとなり、真の競争優位をもたらしてくれる。
- 秘伝のソース
- ジョブ中心に組織をつくる
- 測れることは実行できる
- オンスターのジョブ
- 章のまとめ
- リーダーへの質問
第8章 ジョブから目を離さない
どれほど優れた企業でも顧客のジョブを見失うことがある。原因は、自社製品に対する3つのデータ — 「能動的データと受動的データ」「見かけ上の成長」「確証データ」の誤謬にはまることにある。
- イノベーションのデータの3つの誤謬
- 1 能動的データと受動的データの誤謬
- 2 見かけ上の成長の誤謬
- 3 確証データの誤謬
- データの出所が問題をつくり出す
- 受動的なデータを能動的に捕まえる
- 章のまとめ
- リーダーへの質問
第9章 ジョブを中心とした組織
明確に定義されたジョブは「指揮官の意図」となり、社員の自主性を高める。顧客のジョブの解決にみずからの仕事がどう役立つか、あらゆる階層の社員が理解するようになるからだ。オンスターら成功した組織の事例を見てみよう。
- 直観的な作戦ノート
- 両面コンパス
- だいじなことを測定する
- ジョブがすべてを変えた
- 文脈を見失わない
- 章のまとめ
- リーダーへの質問
第10章 ジョブ理論のこれから
顧客が確実に「雇用」したくなる商品を予測して生み出し、競争優位を手にすることは不可能ではない。われわれは20年かけてその実例を目にしてきた。イノベーションの成功を運頼みとする風潮は、そろそろ終わりにしよう。
- 本当に理論と呼べるのか
- 理論が〝誤って〟いるとき
- 理論の限界
- ジョブ理論の適用範囲の深さと広さ
- 個人的なジョブ
- 公教育
- 医療
- 人生のジョブ
- ジョブ理論とともに
- 謝辞
- 日本語版解説
- 索引
クレイトン・M・クリステンセン(他著)依田光江(訳)
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