ロナルド・A・ハイフェッツ (著)
マーティ・リンスキー (著)
野津智子 (翻訳)
英治出版
本の詳細
リーダーとして行動する際にリスクがついてまわるのは、リーダーシップを必要とする問題の性質に原因がある。また適応課題に取り組む際に激しい抵抗が生まれるのは、人々の習慣や信念や価値観を脅かすからである。
[新訳]最前線のリーダーシップ――何が生死を分けるのか/ロナルド・A・ハイフェッツ/マーティ・リンスキー (著) 野津智子 (翻訳) 英治出版より
長年の価値観や信念や習慣に疑問を投げかけると、人々にはあなたが危険な人物に見える。人々が「聞きたいと思うこと」ではなく「聞く必要のあること」を口にすれば、あなたは自分を危険にさらすことになる。あなたは熱い思いを抱き、よりよい未来がはっきり見えるかもしれないが、人々には同じく強烈に、よりよい未来と引き換えに失うものが見えるのだ。
一般に、向き合いたくないことに無理にでも向き合わせる人に、権限が与えられることはない。選ばれるのはむしろ、保護を与えて確実に安定をもたらしてくれる人、混乱を最小限に抑えた解決策を考えてくれる人である。
だが、適応課題に取り組むときには、リスクや対立や不安定さが生まれる。なぜなら、その課題の根底にある本当の問題を解決しようとすると、深く根を張った習慣を覆すかもしれないからである。かくして、リーダーシップを発揮する際には人々を不安にさせることが不可欠になる
バルコニーからの視点を持つとは、たとえ一瞬でも、ダンス・フロアから離れた自分を想像するということである。目の前で起きていることをしっかり認識し、同時に全体を見渡すには、興奮あるいは緊張する場から離れる以外にないのだ。もし離れなければ、状況を誤解し、誤った診断をして、介入すべきかどうかや介入の仕方について、見当違いの判断を下してしまうことになる。
今起きていることに介入する必要があると判断した場合は、ダンス・フロアに戻らなければならない。
慎重すぎる観察者としてバルコニーにとどまるのは、全体像がそもそも見えていないのと変わらない。これは、静的なプロセスではなく、ひたすら反復するプロセスでなければならないのだ。
ダンス・フロアとバルコニーを行ったり来たりし、介入し、介入の影響をリアルタイムで観察し、それからまたプロセスの最初に戻る。これによって目指すのは、可能なかぎり、両方の場所に同時にいられるようになることである。
最大のポイントはこれだ。「バルコニーから観察するときには、ほかの人たちだけでなく、自分自身も見なければならない」。もしかすると、あらゆる作業の中で、これが ――― 自分を客観視することが、最も難しいかもしれない。
大勢の中の一人として自分を外から見るためには、システムとさまざまなパターンを観察し、全体的なパターンの一部として自分自身を見つめる必要がある。自分の特別な知識や意図や感情を脇へ置き、ほかの人たちが、もしバルコニーに立ったら見えるはずの、あなた自信の役割に気づく必要があるのだ。
目次
- 新版に寄せて
- はじめに
Part 1 リーダーシップに伴うリスクとは
第1章 なぜ、リーダーは危険にさらされるのか
- リーダーシップはリスクを伴う
- 適応へ向けた変革のリスク
- 権限を超越する
- リスクの中心には「損失」がある
第2章 リスクのさまざまな側面
- 片隅へ追いやられる
- 注意をそらされる
- 攻撃される
- 魅惑される
Part 2 生き残る方法
第3章 バルコニーに立つ
- 技術的な問題か、適応を要する課題かを見きわめる
- 人々の立場を知る
- 言葉の下の歌に耳をすます
- 上に立つ責任者の考えを読み、手がかりを探す
第4章 政治的に考える
- パートナーを見つける
- 反対派とも連絡を密に
- 自分も問題に関与しているという責任を引き受ける
- 人々の喪失感を承知していると伝える
- 範となって示す
- 犠牲者が出るのはやむなしとして受け容れる
第5章 対立を調和へ導く
- 包み込む環境をつくる
- 温度を調整する
- ペースを調整する
- 未来図を見せる
第6章 するべき人に仕事を返す
- 問題の責任を引き受けない
- するべきことを、するべき人に返す
- 介入は短くシンプルに
第7章 平静を保つ
- 非難に耐える
- 取り組むべき時機を待つ
- 問題に注目してもらう
Part 3 己を知り、心をひらく
第8章 強烈な欲望の主(あるじ)になる
- 影響力と支配
- 賛同を得ることと重要視されること
- 親密さと性的快感
- 本能的な欲望への対処法
第9章 自分の中に「錨(いかり)」を下ろす
- 自己と役割を区別する
- 腹心を持ち続けよ、ただし、パートナーと混同するな
- 心安らぐ場所を探す
第10章 なぜ最前線に立つのか
- 愛
- 「数字という物差し」の神話
- 大切なのは形式ではない
第11章 尊い心
- 尊い心についての考え
- 純真さ、好奇心、思いやり――あらゆるものを受け容れる心の素晴らしさ
- 感謝の言葉
- 原注