西澤真理子
毎日新聞出版
本の詳細
「やばい」はここ数十年で「すごい」「最高である」といったポジティブな使われ方をする場合もありますが、本書は本来持っているネガティブな「やばい」を中心に扱います。これから登場する「やばいこと」は、否定的な文脈で使われる、言いにくいこと、誤解されやすい情報のことであり、デリケートな内容を含む、相手が「聞きたくないこと」、つまり「不都合な事実」です。
相手が喜ぶニュースだったら、誰だってすぐに伝えたいし、少しぐらい情報が足りなくとも、言葉が稚拙だとしても、相手は快く受け取ってくれるはずです。
一方で、伝えるべきニュースが「やばい内容」だった場合は、そうは簡単にことは運びません。デリケートな内容なので扱いづらいこともあるし、いざ伝えようとしても、こちらの意図が正確には伝わらないものです。さらに、なんとか伝わったところで、相手がこちらの期待したように動いてくれるとも限りません。一歩間違えると瞬く間に炎上してしまうことだってあるのです。
「リスク」という言葉は「危険!」という赤信号をイメージさせます。でも、実際のリスクには赤信号から黄信号まで幅があり、青信号に近いものまであるということです。
また、リスクを天気予報の降水確率のようなものと考えたらもっと身近になるかもしれません。
90%だったら雨は降りそうですよね。10%だったら、いや、降らないかもしれないな、降らないだろうな、と思うでしょう。
では、30%なら? これは人によって違います。念のために傘を持っていく人と、今まで30%の予報で外れることが多かったから、持っていかなくてもいいや、置き傘もあるし、ビニール傘を買えばいいや、と思う人もいるでしょう。空を見て、ああ雲が多いし持っていくか、と考える人もいるでしょう。
このように、実際は「可能性」という言葉のニュアンスを私たちは知っているし、その解釈には慣れているのです。
ですが、これが「リスク」という話になると、とたんに多くの人がパニックや混乱に陥ります。
目次
1章 なぜ「やばいこと」を伝えるのは難しく、トラブるのか?
01 不都合な事実はたいていうまく伝わらない!
- コミュニケーション能力の欠如がピンチを招く
- やばいことを伝え損ねる6つのパターン
02 伝えづらいのは「リスク」の正体がつかみづらいから
- リスク=「危ないこと」ではない!
- リスクの正体とは
- リスクをゼロにするのは不可能
- リスクを身近に感じるイメージ
Column 本来のリスクコミュニケーションとは
03 伝わらない原因は「安全安心」にある
- 欧州で学んだリスクコミュニケーションが使えない!?
- 摩訶不思議な「安心」という概念
- 「安全安心」のコスト
- 多様化する社会では一方通行は限界
Column 「安全安心」は2000年から!?
04 小さな「やばいこと」が許されない不寛容社会
- なぜ記事は炎上したのか?
- 不寛容社会と「やばいこと」の炎上
- 「中高生がキレる」現象は対話の難しさとリンクしている
2章 なぜあなたの言葉は伝わらないのか?
01 「相手は自分と違う人」という地点からスタートする
- 「当たり前」が当たり前に通用しないわけ
- 「忖度の国」の日本人が間違いやすいこと
- ゴールは説得ではなく、納得と共感
- 共感の時代に説得は合わない
02 言葉よりもイメージと感情が先に伝わる頭の仕組み
- 論理より直感、言葉よりイメージ
- 私たちがやりがちな「勘違い」とは
- 感動ストーリーは人を動かしやすい
03 人には受け入れづらいリスクがある
- メリットが上回れば多少のリスクは気にならない
- 人が本能的に嫌うリスクとは
04 リスクのイメージを変えてしまうマスコミと口コミ
- イメージを強固にする増幅機能
- 友人の不思議な行動の理由とは
Column 記者対応で言葉よりも先に伝わった企業の態度
- 口コミが強固なわけ
- セレブのおすすめを買いたくなるのはなぜか?
- SNSは情報のタコツボ化を進めるツール
- 言葉だけでは伝わらないからデザインが必要
3章 伝え方の基本とコツ
01 3つのプロセスで伝える
- 相手は変えられない。だからあなたのやり方を変えよう!
02 [準備] まずは相手の話を聴く
- アウトプットばかりがコミュニケーションではない!
- 「聴く」とは相手が話したい雰囲気をつくること
- 太陽のような態度で相手の警戒を解く
- 食を共にして「聴く」雰囲気を盛り上げる
03 [準備] 準備にかけるコストと時間をケチらない
- 伝える相手をプロファイリングする
- 下調べは共通の話題づくりにも有効
- 相手が記者なら「逆取材」
- 瞬時に反応できる”溜め”をつくる
04 [準備] コミュニケーションの外堀を埋める
- 普段から相手との関係を築く
- 基本はあいさつ
- こちらのコンディションを万全に整えて近付く
05 [実行] 伝える姿勢を整える
- 相手の目線に合わせ、事実を伝える
- わかったふりをしない
- 百聞は一見に如かず
- 情熱も上から目線も全部伝わる
- 相手のメンツをつぶさない
06 [実行] 相手サイズの説明と言葉を選ぶ
- 小学5年生でもわかるように説明する
- 専門家がやりがちな間違った言葉選びと話し方
- 「科学的に正しいことなら伝わる」という誤解
- 相手の興味・関心に合わせて言葉を変える
Column 短く、何度も繰り返すことの効果
07 [実行] NG言葉・表現を使わない
- 「やばいこと」をさらに悪化させる言葉とは
- 「絶対安全」と言わない
08 [フォロー] 理解度確認や関係強化をはかる
- 「最後の一言」が日本人には効果的
- すぐに連絡、お礼を言う
- なぜスピード感のない手紙が有効なのか?
- フィードバックをもらう方法
- SNSには要注意
- 準備からフォローまで、必要なのは「継続力」
4章 「やばいこと」を共有する場と空気をつくる
01 集団のコミュニケーションとはどんなもの?
- 集団で「やばいこと」を伝える・話し合うのはどんな時?
- なぜ対面コミュニケーションが必要か?
- 集団の本音は意識調査では出てこない
- 明確なビジョンを持つ
02 空気をデザインする
- 話しやすい、腹に落ちやすい場所をつくる
- 会場選びから机の配置までハード面を整える
- 立場によってハードから受ける印象は違う
- ソフト面のコントロールは意外に難しい
- 服装も「対話の枠」を決める
- 特別扱いは不信感のもと
- 対話の面白さと難しさ
Column どんよりした空気をどう吹き飛ばすか?
03 ”戦略的”な人選び
- 参加者の質で会の成功は7割決まる
- つくりたい場から逆算して参加者を選ぶ
- 社内の組織改革の場合の参加者選び
- 幹部を参加させて本気度を伝える
- 招待制で質の高い議論をつくる
04 伝える側をどう選ぶか
- 主催者に都合の悪いことは言いづらい
- 対話をどう位置付けるかをあらかじめ伝える
- 説明はもういらない!
05 議論と対話をデザインする
- ファシリテーションとは
- 会の趣旨を共有する
- アイスブレークで議論への流れをつくる
- テーマについて簡単な話題提供をする
- 議論の流れをコントロールする
- 全体像を「鶏の視点」で見る
- 身構えない・相手を打ち負かさない
06 技術よりも大切なこと
- テクニックを磨いても伝わらないことがある
- 情熱は技術をしのぐこともある
- 安易にテクニックに流れない
おわりに
参考文献
西澤真理子
毎日新聞出版